集客率アップへの戦略とは
ネットとリアルの相乗効果を意識した企業戦略が不可欠に 店舗小売業がインターネットを積極的に活用するようになってきた。顧客接点の拡充という観点からeコマースに参入するだけでなく、既存店舗への誘導など販促に取り組む企業が増えている。今後、ネット戦略で成功するためには何が重要なのか。 インターネットを通じての商品販売やプロモーションが一段と強化  ここ数年、百貨店やスーパーマーケット、コンビニエンスストア、家電量販店などの店舗小売業では、お客様の買い物をより便利で快適にするため、インターネットを通じた商品販売やプロモーション、コミュニケーションを強化する動きが著しい。  本誌では今を去る4年前、2002年10月に“クリック&モルタル”の実態を把握するため、店舗販売および通信販売を実施している企業を対象にアンケート調査を実施した。  改めて、このアンケート調査を振り返ってみると、店舗小売業のインターネット活用の効果として、「顧客サービスの拡充」が58.8%でトップ、次いで「ブランドイメージの浸透」が41.2%で、「売り上げの拡大」(35.3%)、「商圏の拡大」(32.4%)と続く。本誌2002年12月号ではこれらの結果を受けて、「店舗小売業が期待していると思われる“店頭を補完・強化する役割”は、十分に果たしている」と結論付けている。今回の取材結果を見ても、ネットと店舗のシナジーを狙った動きは、いまだにとどまるところを知らない。  そもそもインターネットが活用され始めた当初は、店舗とのカニバリゼーションが危惧されたが、(1)顧客接点の拡大により顧客のライフ・タイム・バリュー(LTV)が最大化できること、(2)ネット活用によるマーケティング・コストの削減が期待されることから、今ではほとんどの店舗小売業がインターネットの活用に乗り出しているのだ。  店舗小売業によるインターネットの活用方法には、eコマースやプロモーション、顧客サービスなどがあるが、ここではeコマースを中心に述べてみたい。 店舗小売業のeコマースを4つに分類  今回、本誌では店舗小売業のeコマースを、「新規顧客⇔既存顧客」「新規商品⇔既存商品」の2軸で、以下の4つに分類した。 (1)「新規顧客×新規商品」  新規事業としてのeコマースへの参入=新たな商品群を軸に顧客を開発 (2)「既存顧客×新規商品」  店頭にない商品(これから店頭に並ぶ商品、店頭に置けない商品など)をネットで販売=品揃えの拡大、客単価の増大、顧客の維持 (3)「既存顧客×既存商品」  わざわざ店に出向かなくても店頭商品をネットショッピングできる=購買の便宜性の提供 (4)「新規顧客×既存商品」  店頭商品を店舗商圏外の顧客にも販売=商圏や顧客の拡大  以下、今回の取材対象企業を中心に、各社の主要なネット戦略を編集部なりにプロットしてみようと思う。なお、(1)に関しては、「店舗小売業のネット戦略」という今回の特集の趣旨から若干はずれるため、ケーススタディとしては取り上げなかった。  まず、食品小売業の(株)紀ノ国屋の地域限定の「ネットスーパー」は(4)を中心に(3)へと広がっている。同社では、既存店舗の核となる顧客層の高齢化から、最も購買力の旺盛な20〜40代の顧客獲得のため、ネットビジネスへの進出を決断。その結果、20〜40代の乳児を抱える主婦や日中働いている女性たちの支持を得て、新規顧客の獲得を実現している。  百貨店の(株)三越は(1)を中心に他の象限へと広がっている。同社では、2006年2月から、eコマースのさらなる強化を目指して、営業企画本部にあったeビジネス推進部を通信販売事業部に移管した。そして、通販商品のすべてが注文できるようにサイトに順次追加している。さらに、インターネットサービスの充実を図ることで、パソコンやケータイを通じたネット購買世代の顧客化を推進している。  衣料品のオンラインショッピング市場の拡大に目を付けたはるやま商事(株)は(3)を中心に他の象限へと広がっている。同社では、「P.S.FA」の顧客層である20〜30代のビジネスマンを意識し、eコマースに特化したサイトを立ち上げた。現在では、既存店舗への来店促進につながるなどネットとリアルの相乗効果が現れつつある。  また、残念ながら、今回は取材への協力が得られなかったが(株)丸井は(3)を中心に他の象限へと広がっている。同社では、この4月に、通販とeコマース部門を会社分割方式で切り離し、新会社「マルイヴォイ」を設立。全国29直営店の店頭で扱う衣料・服飾雑貨の全商品をインターネットで販売している。百貨店業界では店頭とは異なる通販商材をネット販売するのが通例で、同社のケースは珍しい。店舗のない地方の顧客向けの対応強化と、社会人になり、来店する時間が少なくなった既存顧客をつなぎとめる狙いがある。 自動車、家電、医療器具、観測機器など、あらゆる分野で重要な役割を果たしているのがバネである。東海バネ工業は、70年以上も前から、高品質のバネを受注生産で作り続けてきた。中小企業のIT化が声高に叫ばれる遙か以前、25年前には注文から生産管理、出荷までを管理するシステムをすでに完成している。その同社が、ITによって再び生まれ変わろうとしているのだ。  もう1つのノウハウ開示については、持っている情報をWeb上ですべて開示にすることによって集客し、Webから単品注文を取れるようにするということであった。独自ノウハウをウリにしてきた同社にとっては抵抗感のある提言であったが、会社のページを全面的に作り替えた。バネについての技術情報をわかりやすく公開し、バネ設計に便利な支援ソフトも無料で提供。さらに、バネに関する質問を誰もが自由に行えるようにした。    その効果は如実に現れた。昨年1年間で、国内企業の開発部門や、大学の研究室など、全部で106の新規顧客を獲得。金額にして3000万円分を新規に受注した。さらに、今年は半年だけですでに100社の新規顧客から注文を得たという。情報を公開することによって、顧客に同社が持つ技術力を知ってもらえる。顧客としては、難度の高い注文を安心して任せられると考えるわけだ。    ユニークなのは、同社が保有している材料在庫までWeb上に公開し、販売も行っていることだ。同業他社や個人であっても、これらの材料を購入できる。 「ITコーディネータには、ボブ・サップになりなさいといわれました。相手がボブ・サップなら、誰も最初からケンカをしようと思わないでしょう。それだけのものがうちにはあるのだから、怖がらずに外に出せばいいのだと。」(取締役 夏目直一氏) 夏目直一氏 Naokazu Nastume 東海バネ工業株式会社 取締役 Web上から前回品を即座に注文できる「リ・オ・ダ」  先述した通り、同社の注文の8割は前回品なので、これを活用しない手はない。従来システムと連携し、Web上で既存顧客からの注文を受けられる「リ・オ・ダ」システムも9月から稼働をはじめた。既存顧客にはIDとパスワードを発行し、顧客が自分で注文履歴を閲覧したり再注文できる。    同社の製品はすべて受注生産なのでどうしても既製品よりは納期が長くなる。しかし、生産に着手するまでの時間をできる限り短縮し、既製品を買うのと同じ感覚でフルオーダーのバネが買える態勢を整えている。  改善は、社内の組織構造にまで及んだ。営業組織は、従来の地域別から機能別に再構成した。社員それぞれの得意分野を活かし、よりスピーディに情報が流れるようにしたのだ。    社内情報はメーリングリストやグループウェアで共有し、営業の人間も技術情報にすぐアクセスできる。新規取引の審査承認はグループウェアですぐに行われる。これにより、顧客から問い合わせをもらったら、即座に見積を送り出せるようになった。 「お客様への対応をスピードアップしますと、それに比例して受注率も上がっています。」(夏目氏)  見積決定率は、昨年1年間の平均で48%。今年前期は55%と、他社と競合になっても2件に1件以上は受注できていることになる。 東海バネ工業のWebページでは、バネに関する掲示板が用意されている。高度な技術に関する質問にも同社社員が直接回答している 厳しい顧客に対応できるような会社でなければ生き残れない  渡辺氏に、中小企業のIT導入はどうあるべきかをうかがった。 「各社それぞれの経営目的を明確にすることがスタート地点です。流行だからといって、確固たる目的なしにITを導入しても大きな効果が得られないでしょう。必要なのはもしかしたらITではないかもしれません。弊社は、多品種受注生産というビジネスモデルの実現のためにITを使えた幸運なケースではあると思いますが。」    そして、バネ業界ひいては製造業全体についての危機感を表明する。 「バネの国内生産の80%は自動車、家電、弱電で使われています。日本を世界に名だたる経済大国に引き揚げた業界がバネをお使いなんですね。いってみれば、バネメーカーは発注元のニーズに追随して成長してきたわけです。ですが、もうニーズ追随型ではダメです。逆にお客さんを刺激する、そういう下請けメーカーにならないと生きていけないと痛切に感じています。」 「これからは、見込み発注、まとめ買いをしてくれるお客さんも少なくなるでしょう。また、そういう発注をするお客さんは、この変化する状況の中で、発展していくでしょうか? 大量生産をしなければならない企業は、人件費の安いところに追い込まれていってしまうでしょう。難しい製品をわずかな数だけ購入する、そんな厳しい買い方をするお客様に満足していただけるメーカーにならないと。数をまとめていただいたら、値段をサービスしますというビジネスでは、これから生き残ることはできないでしょう。」 (取材・文:山路達也) ISO9001は、ISO(国際標準化機構)が制定した品質管理のための規格。企業の品質保証体制が国際標準を満たしているか第三者機関が審査する。一方のISO14001は、環境マネジメントのための規格。環境への負荷を低減するための仕組みが実現されているかが審査される。