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刑事も探偵も犯人の発見を最終的な目的としますが、彼らはそうした目的のためにあらゆる手がかりをもとにして、つぎつぎと推理を重ねます。
さて犯人探しの場合のもっともありふれたやりロは犯人の遺留品、とりわけ足跡、血痕、指紋といったものからたどっていくというものです。
ます足跡からの推理をみることにしましょう。
もしその足跡が、足をひきする人物のものだったとしたら、足跡か左右不ぞろいのはずである。
この足跡は左右不ぞろいである。
ゐこの足跡は足をひきずる人物のものであろう。
これは明らかに推理です。
この推理で人物像かかなりしばれはしますが、しかしそれで十分とはもちろんいえません。
左右不ぞろいの足跡から、その人物が足をひきずっていることはわかっても、けがなどで一時的に足をひきずっているのかそれとも、生まれつき足のわるい人物なのかまではまだわからないからです。
つぎに血痕についてみますと、ある人物の血液型がO型なら、その人物の血痕からO型が検出されるはずである。
ある血痕からO型が検出された。
晶その人物の血液型はO型であろう。
これは推理ではあるか、しかし実質的には正しい推論でもあるので∴を使ってもけっこうです。
つまり結論は一〇〇パーセント真なのです。
というのも、第一前提の逆である「その人物の血痕からO型か検出されれば、その人物の血液型はO型である」もまた成立し、結局、前提は双条件文となるからです。
このように血痕の血液型による人物の割り出しは、推理を通りこして推論となりうるという点で足跡などにくらべて大きな強味をもちます。
しかしたといO型の人物だということがわかっても、その人物が誰かということまではけっしてわかりません。
またどういう性格の人物だということさえもわかりません。
ついでにいっておきますと、血液型から、人物の性格が割りだせるといったことを主張するひとびとがおり、多くのひとびとがそうした説を信用していますが、そうした説は科学的に実証されたものではありません。
そうした説は、うさぎの年に生まれた人は性質がおとなしく、いのししの年に生まれた人は性質が荒っぽいといった俗信と五十歩百歩であり、あまりまじめに信じないほうが賢明です。
つぎに指紋について考えましょう。もしその指紋がA君のものだったら、その指紋はこれこれのものである。
その指紋はこれこれのものである。
品その指紋はA君のものであろう。
この推理の第一前提は、前件と後件をひっくりかえしてもなりたつから、この結論は推論の結論であり、したがってぜったいに真なる結果だということができます。
じっさい、指紋が血液とちかうすぐれた点は、血液の場合は同じ血液型をもつ人間はひじょうに多いか、指紋の場合は同じ指紋をもっている人は絶対にいないという点にあります。
探偵ホームズは推理力にもすぐれていましたか、科学にも強く、いわゆる科学捜査をもよく使いました。
これはもちろん警察のほうでも得意です。
ロンドン警視庁は一九〇〇年にいちはやく指紋による捜査四方法を採用しました。
そして『シャーロックーホームズの帰還』の「ノーウッドの建築業者」のなかでそれか使われる場面がでてきます。
同じ指紋が二つとないという科学上の発見と。
指紋の種類の分類法の成立にややおくれて、血液型に四種類あるという事実か発見されました。
したがって探偵ホームズの物語のなかには、指紋の話はでてきますが、血液型の話はでてこないようです。
とはいえ、犯人発見には指紋のほうがずっと強力な武器であることは明らかでしきけれども指紋検出が犯人発見の絶対的な方法だとはいえません。
残された指紋からその指紋をもつ人物を割りだすためには、すべての人物の指紋かあらかじめ登録されているか、それでなければ、めぼしをつけた人物の指紋をこっそり採取する必要があります。
また、ある人物の指紋かとりだせたとし、犯行現場に残された指紋が照合の結果、それと一致したとしても、その人物かすぐさま犯人だとは断定できません。
さきほどの「ノーウッドの建築業者」も、警部が犯行現場の指紋を証拠に、無実の人間をあやうく犯人に仕立てあげようとしたときに、ホームズがそうした被疑者を死刑台行きから救ってやったという話だったのです。
推理小説は、推理を重ねることによって、犯人をみっけだす過程を書きつづったものだということがわかりました。
しかし推理というものは、犯人探しだけに使われろものではありません。
もっと大切な仕事、つまり真理の探し出しにも使われるのです。
人間はいままでに数々の科学的な定理や法則を発見してきました。
そしてそうした科学的知識の発見の過程を知りたいと思えば、科学史の本を読めばいいのです。
こうして科学史とは、科学的知識の発見物語だといえます。
そしてこれは推理小説が犯人の発見物語であるのとおなじことです。
しかも科学の発見物語は推理小説にまさるとも劣らないだけの興味ある推理の積み重ねを含んでいるはずです。
ただし残念なごとにいままで書かれた教科書ふうの科学史の本のほとんどは、推理小説ほどはおもしろくありません。
これはそうした本を書いた人の責任でして、科学上の発見の物語は実はとてもおもしろいはすのものなのです。
さてこんどはピタゴラスの定理を例に使って、真理が発見される過程を考えることにしましょう。
ピタゴラスの定理は三平方の定理ともいわれます。
ある三角形が直角三角形ならば、斜辺の平方は他の二辺の平方の和に等しく、逆に、ある三角形の斜辺の平方か他の二辺の平方の和に等しければ、その三角形は直角三角形だといったものです。
さてこの定理のいちばん簡単な場合が、3、4、5の場合、つまり飛十飛=飛といった場合で、こうした特殊なケースは、バビロニア人、古代エジプト人、古代インド人、古代中囚人をはじめ、ほとんどの古代民族がひじょうに古くから知っていました。
彼らは図8で示したように、輪にした縄を3対4対5の比で分けたところにくいを当てかって、ぴんと引っ張ることによって、地面の好きなところに直角をつくりだすことを知っていたのです。
彼らはやがて、そうした直角づくりの比は3:4:5だけでなしに、5:12:13や7 : 24 : 25や8:15:17といったものもあるということをみつけました。
ですからこれまでの発見を文章で表現しますと、つぎのようになります。
縄の分割の仕方を3:4:5にすれば直角三角形か出現する。
縄の分割の仕方を5:12:13にすれば直角三角形か出現する。
以上のような発見からはまだ三平方の定理の発見にはほど遠いのですが、やがて彼らはつぎのことに気づきます。
縄の分割の仕方を暗十飛=氾の式の中の3と4と5の割合にすれば、直角三角形が出現する。
縄の分割の仕方を一+12^ = 13^の式の中の5と12と13の割合にすれば、直角三角形が出現する。
ここまできますと三平方の定理にだいぶ近くなりましたが、まだ完全ではありません。
というのも第一に、例えば「3と4と5の割合にすれば」という条件は、フンーオブーゼム(多くの中の一つ)でして、それゆえ特殊的であり、定理というにはなにかそぐわない感じがあるからです。
そしてじっさい、直角をつくるには3:4:5でなければならないということはなく、5:12:13であってもその他であってもかまわないのです。
そしてこのCとは3:4:5ならば直角三角形が出現する」は真ですが、その逆である「直角三角形が出現していれば、3:4:5である」は必ずしも真ではないということを意味するのです。

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